1995年3月20日朝、地下鉄サリン事件が起きた。僕はその日も日唱の事務所に向かっていたが恵比寿の駅前には、日比谷線から逃げてきた、沢山の人々で溢れ、異様な雰囲気が充満していた。事務所に着いた僕はテレビで、その大事件を知ったのだが、その後の大混乱は今でも忘れる事ができない。
　その一週間後の27日、僕達「登戸混声合唱団」（以後、のぼこん）のメムバーは初の海外演奏旅行へ旅立ったが、成田空港へのエクスプレスの中の車内テレビでもオウム教サリン事件のニュースでいっぱいだった。
　さて成田からニューヨークへの空の旅でその事件を心に残しながらも、カナダ上空で飛行機の窓からオーロラを見たりして皆の心も少しずつなごんでいったようだった。

　我、のぼこんにとって初めての海外演奏会はいきなり世界に名だたる、あのカーネギーホールである。1891年創設者アンドリュー・カーネギーの手に成るこの歴史的建造物は定員3,671席、古くからクラシック音楽の殿堂となっている重厚感あふれる格式の高い大ホールである。今は、どこのホールに行っても立派な楽屋がそろっているが、そんなものはなくて、そまつな控室、ギシギシときしむような古いエレベーターを上ると、ステージわきの舞台袖もなく、いきなりステージになる。ただホールの音響は実に柔らかく音が広がる素晴らしい舞台だった。客席は５階まで、左右も広々とゆったりとした空間である。その舞台に立った我々は、日本で何より人気が高く、人間の生き方を水の一生に託した名作、髙田三郎作曲の組曲「水のいのち」を歌った。