今年も５月に海外演奏旅行に出かけた。
　15年ほど前から始まったこの行事は、ヨーロッパ・アメリカを中心に12カ国・18都市に及ぶが、その度ごとに何かしら事件が起こるので、出かける前は内心ドキドキとワクワクの入り混じった」複雑な心境で飛行機に乗り込むといった按配なのです。

　さて、1997年春の事。この年は、フランスのマルセイユとパリで公演の予定。数週間前から風邪気味で「体調が悪いなぁ」と思っていたら、出発５日前の夕方から急に下っ腹に激痛が起こって、歩く事もままならなくなってしまった。夜の練習に行く予定の合唱団に急遽休みの連絡を入れ、何とか家に辿り着いたのは７時ごろだったが、そこまでがやっとで、もう身動きすらできない。身体をくの字に折って、床に転がったまま30分ほどが過ぎ、ようやくすがるように電話を取り119番したのだた。

　ところで、救急車のお世話になった方も多いと思うけど、どうもあれは乗り心地の良いもんじゃありませんな。ベッドは硬いし狭いし、急いでいるから仕方ないけどやたらと揺れるしね。
　だいいち、どこに連れて行かれるかわからないから、やたらと時間が長く感じるし、苦しくて気が遠くなりそうだったんでありますよ。

　サイレンを鳴らして到着したのは、溝の口の高津救急病院。
　早速の検査の結果、病名は「腸閉塞」!! 手術はしなくてもいいだろうが入院はしたほうが良いといわれ、日数を聞いたら“１週間”と院長先生が宣う。“それじゃ飛行機が飛んでっちゃうよ”、その上、３日後には別の団の定期演奏会も控えていたのだ。仰向けに寝かされたベッドの上から、何とか入院しないで治してくれと懇願し、すぐ点滴が始まって５時間。ようやく痛みが弱くなってきて「くれぐれも無理しないように」と厳重注意を受けて、朝方家に帰ってきたんでありました。

　それから出発までの５日間、痛みは全く再発することもなく、いつの間にか風邪も治って演奏会も無事、大成功のうちに終了し、成田から一路ドゴール空港めざして機上の人とあいなったんでありますが・・・。
　一難去ってまた一難、とんでもない事件が待ち受けていようとは、その時、露ほどの知る由もなかったのでありました。　（つづく）